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   米国パテントで読む最新電子技術
     ーE Ink社の電子インク技術を中心とした話題ー

電子メール新聞の活用
インターネットで公開される電子技術関連の英文ニュースの一部は、発表されてから1日の遅れも待たずに和文に翻訳されたものを日本語のニュースサイトで読むことができる。
電子メール新聞の配信サービスに登録しておけば、タイトルと要約付きのリストが送られてくるので、詳細記事を見たい場合は、メール記事中のURLをクリックしてホームページ上の本文記事を開くことができる。さらにオリジナルを読みたければ英文記事に跳べばよい。
このような記事で興味を引かれるテーマがあったら、インターネットの検索機能を利用して、遡って関連記事を容易に収集できる。
さらにこれらの記事の背後にある具体的な技術内容を調査するには、特許情報が非常に有用である。
米国特許では、特許の背景技術がかなり丁寧に解説されているものが多いので、特許申請されている技術内容だけでなく、単に現状の技術背景を把握するためにも役に立つ。
ここでは、未来の紙として将来は紙の新聞や本にに置き換わるだろうと期待される「Eインク(Electronic Ink, E Ink)」や「電子ペーパー(Electronic Paper, E Paper)」と呼ばれる新技術を例として、インターネットでの検索を利用し、最新ニュース記事を収集し、さらにその記事の背景にある技術を読むために、米国パテントを検索し、読み解いてゆく事例について紹介する。

未来のパピルス、電子ペーパーの実用化
電子インクや電子ペーパーと呼ばれる技術が注目されている。グーテンベルクが聖書を印刷して以来約500年の後に現れた未来の紙(パピルス)と呼ぶに値する画期的新技術のようだ。
それも夢のような話ではなく、すでに大手デパート、ドラッグストア、ホテルが表示板や商品広告看板に使ったり、フェニックスの地方紙が朝刊のニュースを提供するために電子看板として使うなど実用化が始まっており、電子ブックや電子新聞としても4、5年先には実現するだろう言われている。
薄いプラスチックのフィルムにEインクと呼ばれるインクを印刷されたこの電子ペーパーは、グリッド状の電極によって電界を加えるとそのパターンがカメレオンのように変化し、電場を取り去った後も表示が持続する、いわゆる双安定性を示すものだという。

昨年(2000年)11月21日、E Ink社とルーセントテクノロジー社の共同開発プロジェクトによるEインクの試作品が発表された。E Ink社は,MIT Media Labで考案された電子ディスプレイの新コンセプトに投資する目的で1997年に設立された新興会社である。このような記事は、japan.internet.com(http://japan.internet.com)の記事(
http://japan.internet.com/webtech/20001121/print12.html)や日経BPのIT Proの記事(http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/ITPro/USNEWS/20001121/8/)で読むことができる。

図1 Japan Internet.comの記事
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その後、12月6日に、米ゼロックス社も再利用可能な電子ペーパー(reusable electronic paper)を開発したと発表した(図2:米Xerox社のニュースリリース(http://www2.xerox.com/go/xrx/newsroom/))
国内メーカーのキヤノンも開発中の同様の技術を公開した。
(http://www.zdnet.co.jp/news/0011/20/paper.html)
また、富士ゼロックスも同社のホームページに同様の技術を公開している。
(http://www.fujixerox.co.jp/nbc/esradd/oePaper/index.html)
これらの開発品は、早ければ今年中にも一部の製品が出回るかもしれず、液晶表示の次のディスプレイをめざす激しい開発競争の幕開けを思わせるものがある。

インターネットで読む電子インクに関するニュース
電子インク、または電子ペーパーをキーワードとしてインターネットで検索すると、これ以前にも注目すべき多くのニュース記事や雑誌記事が見つかる。
これら記事を、時系列的に追ってその要点を記してみよう。
■1999年5月3日、ワイアード・ニュース
http://www.hotwired.co.jp/news/news/technology/story/2401.html)
電子インク技術を使った初の超薄型ディスプレーが3日(米国時間)、アメリカの大手デパート『JCペニー』でデビューを飾った。
マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究を基にした電子インク技術は、液晶ディスプレーと張り合う技術。将来は、ワイヤレス接続で電子的にコンテンツが更新される薄く柔軟な本や雑誌や新聞ができるかもしれない。
■1999年10月12日 、ワイアード・ニュース
http://www.hotwired.co.jp/news/news/3197.html)
SF映画『ブレード・ランナー』に登場した、超高層ビルに掛けられたビデオ・スクリーンを思い出させる、こんな巨大な双方向型看板が姿を現すかもしれない。12日(米国時間)に米ルーセント・テクノロジーズ社と米イーインク社が提携して、電子ペーパーを市場に出すというニュースが発表されたのだ。
■2000年6月14日、海外internet.com発のニュース
( http://japan.internet.com/busnews/20000614/print4.html)
E Ink Corp.は、削除やアップデートが可能なEブック やニュー ス印刷の促進を狙って、Lucent Technologies ( NYSE: LU) との関係を強化した。E Ink Corp は MIT Media Labによって創設され、ケンブリッジからスタートした企業で、いかなる材料の表面にも印刷、 削除、改定の可能な "Eインク"を開発している。
Lucent の New Ventures Group は、E Ink に対して数百万ドル規模の出資をし、少数株主と なっ た。
■2000年8月31日、海外internet.com発のニュース
(http://japan.internet.com/webtech/20000831/6.html)
地方紙の Arizona Republic は、 E Ink の開発した Eインク技術を採用した。来るべきダウン ロードニュース時代のさきがけとして、最新のニュースをフェニックス地域にある50 カ 所の電子看板に送るために利用する。

図2 米Xerox社のニュースリリース
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■Nature 394, 253 - 255 (1998) 、“An electrophoretic ink for all-printed reflective electronic displays”
(http://www.natureasia.com/japan/nature/chinosouzou/28jacobson/index.html)
このディスプレーは「紙に書かれたインク文字」のように見える。しかし、このディスプレーは寿命が短く、製造が難しいという欠点をもっている。今回、電気泳動性の分散液をマイクロカプセルに閉じ込めることにより、電気泳動性インクを製造した。電気泳動性の媒体をマイクロカプセルに閉じ込めて使用するため、寿命の問題が解決し、また、印刷するだけで双安定性の電子ディスプレーを製造できる。(以上の和文は、Nature Japanの許可を得て転載)

この記事は、開発者達が自ら執筆しており、技術的な内容もかなり深いレベルまで解説されているので、特許を読む前の予備知識を得るためには好都合である。

これらの記事を出発点として読んでゆくと、E Ink という新興のベンチャー企業が重要な役割を果たしていることがわかる。
そこで  E Ink 社のホームページに発表された英文記事
http://www.eink.com/company/hotnews.shtml)にアクセスしてみよう(図3)。

図3 E Ink社のホームページに発表された英文記事
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これを読むと、同社が独自技術の「電子インク」の利用を商業化するために1997年に設立されたベンチャー企業であり、ルーセント・テクノロジーやモトローラ,
Hearst Corpなど資金提供者として名を連ねていることがわかる。
また、Dr. Joseph Jacobsonをはじめとする同社の技術陣のトップは、いずれもMIT Media Labでこのプロジェクトに当初から関わってきた人たちである。
MIT Technology Reviewに掲載された記事(http://www.technologyreview.com/magazine/nov00/mihm.asp)にはプリントされた電子ペーパーを持つDr. Joseph Jacobsonの写真が載っている(図4)。

図4 MIT Technology Reviewに掲載された記事
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米国パテントの検索
米国特許庁のホームページ (http://www.uspto.gov/web/menu/search.html)で、“electrophoretic”や“E Ink”などのキーワードで検索すると電子ペーパー関連特許を探すことができる。
また、以前 IBM Intellectual Property Networkで行われていたサービスは衣替えしたホームページDelphion Intellectual Property Network(http://www.delphion.com/)で利用できる。
上記のMIT Technology Reviewの解説に関連して出願されている特許は、Massachusetts Institute of Technology (Cambridge, MA) による5,961,804である。

また出願人を“E Ink”で検索すると次の9件がリストされる。
6177921 Printable electrode structures for displays
6172798 Shutter mode microencapsulated electrophoretic display
6130774 Shutter mode microencapsulated electrophoretic display
6124851 Electronic book with multiple page displays
6120839 Electro-osmotic displays and materials for making the same
6120588 Electronically addressable microencapsulated ink and display thereof
6118426 Transducers and indicators having printed displays
6067185 Process for creating an encapsulated electrophoretic display
6017584 Multi-color electrophoretic displays and materials for making the same

また、 MITとE Ink社の他に、IBMやXeroxの特許も検索される。これらの特許を調査する第一ステップとして、MITの5,961,804とE Ink社の6,017,584の二つの特許を参考にE Ink社の特許のあらましを以下に記す。

E Ink社特許のあらまし
(1)発明の背景
電気泳動性ディスプレイは、長年にわたり重要な研究開発のテーマであった。電気泳動性ディスプレイは、液晶ディスプレイと比較して、良好な輝度とコントラスト、広い視野角度、状態双安定性、および低電力消費という特性を持つ。それにもかかわらず、これらのディスプレイの長期の画像品質に関する問題が、これまでその広範囲にわたる利用を妨げていた。
カプセル化された電気泳動性ディスプレイの最近の発明は、これらの問題の多くを解決し、液晶ディスプレイと比較して追加の利点を提供する。追加されたいくつかの利点は、多種多様なフレキシブル基板とリジッド基板上にディスプレイ材料を印刷したりコーティングする能力である。従来技術の電気泳動性ディスプレイを苦しませ、ディスプレイを不当な寿命に終らせていたクラスタリングと沈殿の問題は、今や克服された。

(2)発明の概要

この発明は、電気泳動性ディスプレイ、特にカプセル化された電気泳動性ディスプレイと材料を提供する。
図5(特許文書ではFig.1)は、この発明の電気泳動性ディスプレイを図示する。バインダー11は少なくとも一つのカプセル13を含み、カプセルは複数の粒子15と着色された懸濁液17で満たされる。一実施例で、粒子15は二酸化チタン粒子である。適当な極性の直流電界がカプセル13を横切って印加されると、粒子15は、ディスプレイの見える表面に移動し、光を散乱し、白く見える。印加された電界が反転されると、粒子15はディスプレイの後部表面へ移動し、ディスプレイの表面はそのとき黒く見える。
カプセルの形状は、球形であっても非球形であってもよい。 例えば 、 球形であれば、直径はミリメートルの範囲またはミクロンの範囲でもよいが、10ミクロンから数100ミクロンが望ましい。電気泳動性ディスプレイで、少なくとも粒子の一部は、電界の印加によって移動するか回転する。電界は、交流電界または直流電界であってもよい。電界は、粒子を含んでいるバインダー材料に隣接して配置される少なくとも一対の電極によって生成される。粒子は、例えば、吸収顔料、散乱顔料または発光粒子である。粒子は、染料、顔料、ポリマーのいくつかの組み合わせで構成される。

図5 電気泳動性ディスプレイ

そのようなディスプレイは、たとえば、光を逆反射するかまたは実質的に逆反射する粒子の一つのタイプと光を吸収するもう一つのタイプを内蔵する。電界の印加によってカプセル化されたディスプレイの粒子は、カプセルが光を逆反射するかまたは実質的に逆反射するように向きを変える。もう一つの電界を印加すると粒子は、カプセルが光を吸収する、すなわち光を逆反射しないように向きを変える。ディスプレイははまた反射基板を含み、特定パターンの粒子の第一のタイプの向きは、カプセルを通して基板に光を通過させ、光を反射する。特定パターンの粒子の第二のタイプの向きは、カプセルに光を吸収させる。すなわち、光を反射しない。
この発明の目的は、簡単に製造でき、ほとんど電力を消費しない(または双安定ディスプレイの場合はまったく消費しない)、したがって ― いろいろな応用に組み込むことができる非常にフレキシブルな、反射性ディスプレイを提供することである。
                             
            参考文献
(1)米国パテント 5,961,804 6,017,584