第18回

  アナログ回路シミュレーション(2)


前回のDC解析、過渡解析、パラメトリック解析に引き続き、今回はAC解析、モンテカルロ解析、温度解析およびフーリエ解析を学ぶ。
例題としてオーディオパワーアンプ、アンチ・エリアシング・フィルタおよびテスラコイルを取り上げる。特にテスラコイルのように高電圧を扱う危険な回路ではブレッドボードを組んで予備実験を行う場合に比べ、回路シミュレータによる実験は感電の心配がなく変圧器の試作も必要がないので安全かつ効率的である。

パワーアンプの電圧利得
パワーアンプの電圧利得は比較的計算で求めやすい特性であるが、低域や高域の落ち込みがコンデンサ容量でどのように影響されるかなどはAC解析でシミュレーションするのが効率的である。また抵抗値や容量値などの素子のバラツキが回路特性にどのように影響するかといった問題はモンテカルロ解析が有効である。かっては部品を一個一個取り替えて実験的に求めていたものだが、回路シミューレータでなら設定をして任せてしまえば、パソコンだけが徹夜残業もいとわず頑張ってくれる。
ここでは二電源方式のOCLパワーアンプ(図1)の例について考える。
注)図1では素子数を減らすため実用設計で用いるいくつかの部品を省略してある。

1.パワーアンプの調整
パワーアンプはOPアンプのように回路定数を指定しただけでは適切な動作状態にはならず、アイドリング電流と中点電圧を微調整する必要がある。通常は、アイドリング電流をきめるバイアス回路はアイドリング電流の最終値より低い側に寄せて設定しておく。初めに、中点電圧の調整を行い一電源方式であれば電源電圧の二分の一に、二電源方式であれば-30mVから+30mV程度の範囲に入るようにそれぞれ特定の微調用抵抗を調整する.温度依存性も大きいので、R21に関して、温度解析でネストスィープを実行すれば最適のものを選ぶことができる(図2)。
中点電圧が定まったら、次にアイドリング電流の調整を行う.アイドリング電流はクロスオーバー歪み(図3)を除くためにパワー段に流しておく初期バイアス電流で、パワー段に30mA程度流しておけば十分である。この微調整用抵抗はR1で、これも同様に温度解析でネストスィープを実行すれば最適値を求めることができる(図4)。また、過渡解析をすればクロスオーバー歪みが次第に取り除かれる様子を観察することができる。

2.電圧利得のシミュレーション
以上の準備が整ったら電圧利得のAC解析に進む。指定のない抵抗値は許容差を10%に指定し、特に電圧利得を支配する帰還回路の定数は5%を指定する。AC解析の設定は「AC Sweep」をクリックし、図5のように設定する。
電圧利得は、Probeの「Trace」-「Add」で開くダイヤログボックスの下の波形式(I)に20*LOG10(V[Vo]/V[Vi])またはDB(V[Vo]/V[Vi]))とキーボードから直接入力するか関数リストとノードリストから適当なものを選んで作成すればよい。また高機能マーカーを使えばもっと簡単に表示できる。高機能マーカーは、回路図のウインドウで「Markers」-「Mark Advanced」でvdbを選択し、出てくるマーカーをVoの位置におけばよい。位相特性も高機能マーカーのvphaseを使えば簡単に表示でき、図6のようなボード線図が得られる。
図7のような一電源方式アンプの例では、ボード線図は図8のようになる。出力デカップリングコンデンサがあるので低域の伸びがOCLアンプに比べ悪い。
モンテカルロ解析の設定は図9のように行う。OCLアンプの場合の結果は図10で、50Hzから100kHzの範囲ではバラツキは40dB±1dBに分布していることがわかる。

3.パワーアンプのショックノイズ
パワーアンプの設計で苦労したテーマの一つに電源スイッチ投入時のショックノイズの問題がある。パワーアンプの回路図が準備できたところで、本題のAC解析からはずれてしまうが、この問題をシミュレータで解析してみよう。
ショックノイズは、小さい場合にはポップ音と呼ばれる「ポコッ」という音で、むしろ電源が入ったことを確認できる安心感を与えてくれるのだが,大きい場合には「バリバリッ」というスピーカーのコーンが飛び出さんばかりの音がして精神衛生上良くないばかりかスピーカーを破損しかねない。この対策は、平滑コンデンサやデカップリング・コンデンサの大きさを変えて試行錯誤的に対処しようとしても、電源スイッチを再投入する時間によって変化したり,信号源のインピーダンスに左右されたりでなかなかうまく行かない。ここと思えばまたあちらという具合で、牛若丸に翻弄される弁慶のごとく疲労困憊した経験がある。この現象は,電源電圧がゼロから上昇して定常値に達するまでに中点電圧がどのように振る舞うかを見れば理解できる。初段にPNPトランジスタを使用した一電源方式のパワーアンプ回路(図11)で中点電圧の電源電圧に対する依存性をDC解析によって求めると図12の特性が得られる。中点電圧は電源電圧の二分の一になるように制御されるのが理想であるが、電源電圧が低い範囲では初段のトランジスタとそれに直結されるプリドライバ-(図12のQ15)がカットオフ状態になるためこの関係を維持できない。そのため、Q15のコレクター電位は電源電圧と同じで、中点電圧は電源電圧にほぼ等しくなる。図12では、電源電圧が約11Vになったときはじめてプリドライバーの制御が働き出してしだいに電源電圧の二分の一に保持されるようになる。このような電源電圧依存性を持つパワーアンプをブリッジ整流回路につないで電源スイッチを投入すると、電源電圧の立ち上がり期間に中点電圧(図でV(C4:1))は図13のような過渡動作を示し、出力(V(VO))には大きなパルス電圧が発生する。また中点電圧が制御状態に入る瞬間にもパルス電圧が発生する。いずれもピーク値は10V前後の大きなもので、スピーカーで再生するときには聴感上許容できる限界をはるかに越える。このような回路構成に対して、はじめに示した図1のように、初段のトランジスタをNPNとし、プリドライバーをPNPトランジスタにすると、プリドライバーのカットオフ期間中は中点電圧は接地側に保持されるので、その中点電圧の電源電圧依存性は図14のようになる。各部の電位の変化を過渡解析によって求めると図15のようになる。電源投入時の中点電位もゼロから緩やかに電源電圧の半分の電圧に追随してゆくので出力電圧には200MV以下のわずかなポップ音しか現れない。

フィルタ回路
デジタル・フィルタはADコンバータで取り込んだデータを演算してフィルタリングするもので、位相特性も自由に設定できるため、理想的なフィルタが構成できる。しかし、アナログ信号をサンプリングし、AD変換してデジタル処理する際に、ADコンバータでサンプリング周波数(fs)の1/2以上の信号が入力されると、折り返しイメージ信号が発生し本当の信号と区別がつかなくなってしまう、いわゆるエリアシング歪みが発生する。そのため、ADコンバータの入力には、fs/2以上の周波数成分をアナログ信号の段階でカットするアンチ・エリアシング・フィルタを必ず挿入する必要がある。アンチ・エリアシング・フィルタの回路構成に図16の状態変数型アクティブ・フィルタ回路を用いた例について、AC解析により特性をシミュレーションする。この回路でR6の定数を変化させるとQ=1/3(1+R7/R6)の値が変わるのでR6をパラメトリック解析の変数に指定する。パラメトリック解析の設定はダイアログボックスで図17のようにSweep TypeをValue Listに指定し、値0.33k,0.68k,1k,3.3k・・・とキーボードからリスト形式で入力する。解析を実行するとR6の値に応じ図18のような伝達特性が得られる。実際のアンチ・エリアシング・フィルタでは急峻なカットオフ特性が必用なため、このようなフィルタを三段ないし四段直列に接続する。その場合、肩の部分をシャープにするために、各段の特性は同一ではなく、一部の段にはQの大きいものを設けてそのピーク特性によって他の段のなだらかな肩の特性を補う。このような設計規則によって、通過域で平坦な振幅特性で、減衰域で単調減少するバターワース特性と呼ばれる特性を持つフィルタが得られる。また、さらにシャープな肩特性を持つチェビシェフ特性などの別の設計規則もある。

テスラコイル
米国では感電による死亡者は年間300人ほどにのぼるといわれている。テスラコイルのような高電圧回路を扱う場合は、感電事故には十分注意しなければならない。インターネットで「Tesla」をキーワードにして検索するとロックバンドのTeslaなども含め多数のホームページがリストアップされる。その中にはテスラコイルを製作する場合の感電に対する事細かな注意事項や感電の体験談などが述べられていたり、テスラコイルの設計ソフト、製作ガイドや火花放電の写真などが豊富に公開されている。このような危険な回路では、回路シミューレータで予め動作特性を把握しておけば、感電の心配がなく効果的である。テスラコイルの典型的な回路は、図19のようなものである。商用交流電圧がネオンサイン用の高圧変圧器で15、000ボルトに昇圧される。コンデンサが充電され、例えば14、000ボルトに達するとスパークギャップで放電が始まり短絡パスができるので、コンデンサと出力変圧器の一次側巻線との間にLCの並列共振回路が形成され高周波のリンギング電圧が発生する。空心の出力変圧器の二次巻線は100倍近い巻線比で巻かれるので二次側に誘起される電圧は数十万ボルトに達し、放電端子と大地間に火花放電が発生する。これをPSpiceでシミュレーションする場合の一つの回路例が図20である。入力の交流電源V2は15、000ボルトで、高圧変圧器の二次出力電圧を表している。また、スパークギャップは、波高値が14、000ボルトに達したあとオン状態になるようなスイッチ(Sbreak-X)の特性で代用している。その他、直流的にフローテングにならないようにするための抵抗、R4、R7や電流検出のための微少抵抗R5、R6が付加されている。過渡解析の結果は図21に示すようにピーク値18万ボルトの高周波電圧が発生している。スパークギャップが動作するあたりの時間軸を拡大表示したものが図22で周波数はほぼ205KHzの正弦波である。Probe画面の上にあるツールバーのなかのフーリエアイコンをクリックすればフーリエ変換により周波数成分を表示させることができる(図23)。
                           (つづく)


参考資料
1.「SPICEによる電子回路設計(回路シミュレータPSpice入門)」JOHN KEOWN著、町好雄監訳、東京電機大学出版局
2. 「発明超人ニコラ・テスラ」、新戸雅章、筑摩書房

図面

図1 二電源方式OCLパワーアンプの回路図
図2 中点電圧の温度解析
図3 クロスオーバー歪み
図4 アイドリング電流の温度解析
図5 AC解析の設定
図6 二電源方式パワーアンプのボード線図
図7 一電源方式パワーアンプの回路図
図8 一電源方式パワーアンプのボード線図
図9 モンテカルロ解析の設定
図10 電圧利得のモンテカルロ解析
図11 一電源方式パワーアンプ(初段PNP)
図12 中点電圧の電源電圧依存性
図13 中点電圧の過渡応答(電源スイッチ投入時)
図14 中点電圧の電源電圧依存性(図7の回路)
図15 中点電圧の過渡応答
図16 状態変数型アクティブ・フィルタ
図17 パラメトリック解析の設定
図18 伝達特性
図19 テスラコイルの原理回路図
図20 テスラコイルのシミュレーション回路
図21 テスラコイルの過渡解析
図22 テスラコイルの過渡解析(拡大図)
図23 テスラコイルのフーリエ解析