第2回 パソコンの最新動向(2)
動き出したCALS
昨年後半からインターネットとともに話題に取り上げられるようになった言葉にCALS(キャルス)がある。当初、CALSはComputerーaidedAcquisitionandLogisticsSupportの頭文字を取ったものと説明されていたが最近はContinuousAcquisitionandLifecycleSupportの略とされている。その定義は、契約から設計・製造ー廃棄に至る製品のライフサイクルの情報の流れをとらえ、関連する企業が情報ネットワークでこれらの情報を共有するシステムである。企業活動がグローバル化している今日、今後の重要な情報化手段となるもので、これはインターネットの普及とも関係して21世紀の世界の産業界のあり方を大きく左右するといわれている。日刊工業新聞社刊行の「CALS」には「・・・自国の規格が使えず、米欧の枠組みからはじき出されてしまう日本。ネットワークに強い米国が考えついた究極の「日本たたき」なのだ」といささかセンセーショナルな広告文が載っている。CALSに対する取り組みで、アジア諸国が素直に反応しているのに対し、日本の対応が一番遅れているとの危機感が広がり、CALSに乗り遅れるなと昨年5月になってCALS推進協議会が発足した。設立総会には橋本通産大臣(当時)も出席して官民挙げての組織がスタートした。このような会に大臣が初めから出席するのはめずらしいことで、それだけこの会に大きな期待がかけられていると報道された。(日刊工業新聞1995年5月15日号)
CALSはインターネット上で繰り広げられる革命的な構想で、これが完成すれば、これまでのような取引関係が大きく崩れることになると言われており、各社ともCALS化へ向かって全社的な組織作りに動き出した。また技術情報管理システムの開発も活発になっている。例えば、富士ゼロックスは、製造業などエンジニアリング分野における技術情報を中心に、既存の紙の図面情報からCALSなどの最新のコンピューター・ネットワーク環境下での電子情報を統合し一元的に管理するシステム[EDMICS(エドミクス)2000」を開発し、今年2月から順次発売する。同システムにより設計、開発、調達、外注、生産、保守など、製品開発にかかわるさまざまな工程の技術情報(製品企画書、部品図面、全体設計図、調達や外注に使われる帳票、仕様書、マニュアル、そのほか関連する技術など)を一元的に管理、情報の共有化が可能となる。
電子技術者にとっても技術文書や設計資料などCALSに対応した技術情報が要求されるようになるわけで、「SGML」などの規格にも無関心ではいられない。
CALSに関する情報は、インターネットのCIFのWWWサイトhttp://www.cif.or.jp/などで見ることができる。
CPUの高性能化で従来のEWS領域にせまる
パソコンのCPUでは、圧倒的なシェアをしめるインテルの32ビットCISCタイプCPU486がこれまでの主流となっていたが、次世代のPentiumへの移行が急速に進み、昨年の末の出荷よりPentium搭載機が486を上回った模様である。また11月には150MHzから200MHzの高速化を実現した次世代のPentiumPro(開発コード名P6)も発表された。PentiumProはUNIXやWindowsNTなどの32ビットOSで性能を発揮するところから、当初はワークステーションやサーバーに搭載されて、IBMやNEC等の大手パソコン・メーカーから一斉に出荷が始まり、従来のワークステーションの領域にせまることになった。
最高速の200MHzを搭載したパーソナルコンピュータは、英国総合コンピュータ・メーカーであるICLボリューム・プロダクツ社が、「ErgoPro660/200」として、世界の他のPCメーカーに先駆けて、1996年第一四半期に市場投入すると発表している。
一方モトローラ、IBM、アップルの共同開発によるRISCタイプのCPUであるPowerPCは、これまでの製品の中心であったPC601に続いて新製品PC604が出荷され、このCPUを搭載してIBMは、現行モデルの2倍以上の処理能力を持つUNIXワークステーションを発表、アップルも業界標準として定着しつつあるPCIバスを採用したPowerMachintoshの最上位機種9500を発表した。
Windows95など32ビットOSが主流に
昨年暮れのWindows95の発売に際しお祭りにも似た過熱ぶりがマスコミにより報道され、ふだんパソコンになじみのない人にもWindows95は知れ渡った感がある。(週間少年ジャンプ3月18日号「こちら亀有派出所」)
Windows95はこれまでのWindows3.1に続くOSで、32ビットCPUの性能を十分に発揮できものとして待望されていたものである。またアップル社のMACOSの操作性に近づいたという言われかたもされている。たしかに、WindowsではMACOSのような統一された操作環境にはなっていないし、さらに従来のMS-DOSとの互換性という足枷がわざわいして、短いファイル名しか使えないとか、config.sysを書き換えるなど特に初心者にはわずらわしい点が多い。しかし、MS-DOSのCUI環境時代からパソコンに触れてきたものにとっては(筆者も今はMACを愛用しているが、長年PC98とPC-ATを使っていたし、今もDOS/V機を併用している)このGUI環境は格段に使いやすくなったと感じられる。
一方、Windows95との対比でよく引き合いに出されるアップル社は、さきのMACWORLDEXPOで次世代OSであるコープランドを今年中にリリースすること表明し、MACOSの優位性を強調している。
また、32ビットOSで先行していたIBMもOS/2Warp、OS/2Warpconnectの普及に積極的である。
OS/2はプリエンプティブなマルチタスク機能を持ち、アプリケーションごとにメモリー領域が保護されているので、仮に一つのアプリケーションがフリーズしてもシステム全体が停止する事故が起きにくい。またすべてのDOSとウインドウズのアプリケーションはOS/2のもとで実行可能である。これまでOS/2WarpはWindows3.1と共存することができたが、「JustAddOS/2Warp日本語版」が発表され(1月31日)、Windows95がインストールされているパソコンにOS/2WarpV3を追加することにより、Windows95とも共存が可能になった。
キーワード
マルチタスク:
一台のコンピュータで同時に複数の作業(タスク)を行うOSの機能をマルチタスキングという。例えばパソコン通信でフリーソフトをダウンロードしながらエディターでテキスト編集作業を続けるといった具合に複数のアプリケーションソフトを同時に動かせることを指す。マルチタスクではタスクを短時間で切り替えて人間にはあたかも個々のタスクがCPUを独占しているかのようにふるまう。MS-DOSでは同時に一つのソフトしか動かせないのでこれをシングル・タスクOSと呼ぶ。OS/2、Windows、MACOSなどはマルチタスクOSである。マルチタスクOSはアプリケーション同士でCPUを使い回すノンプリエンプティブ方式とOSがCPUの制御を全面的に受け持つプリエンプティブ方式があり、OS/2とWindows95はプリエンプティブ方式のOSである。
本格化するパソコンベースのEDA
これまでEDA(電子設計自動化)分野はUNIXが主体だったが、パソコンの能力が急速に向上し、加えてWindowsNTやWindows95が浸透してきており、UNIXからの移植が進む一方、最初からWindowsで作り込んだパソコンベースのツールが増えてきた。このような状況に対してEWSは、今後、特に三次元グラフィックスやCAEといった高速、高機能が要求される分野へと特化し、市場を拡大しようとしている。現在、EWS製品で注目されているのは、64ビットRISC・CPUを搭載した64ビットEWSである。
パソコン・ベースのEDAでは、オフィス環境とのリンクがスムースになりドキュメンテーションなどもエンジニアの手元で容易にできるというメリットもある。
EDAは設計の効率化、低コスト化への対応がキーポイントとなっており、プリント基板(PCB)のコストダウンでも製造から設計へと移っている。
回路図入力など簡易CADツールではこれまでもパソコンベースのシステムが各ベンダーから発売されているものの、複雑な配置・配線を含めた本格的なPCBCADでは取り扱うデータ量から高次元の処理が必要となり、UNX版の利用が圧倒的に多い。このためPCBCAD最大手の図研や横河デジタルコンピュータなど有力ベンダーはUNIX主体のビジネスを展開してきた。しかし、WindowsNT、同95の登場でパソコンのOSが本格的に32ビット時代に入り、EWSに比べて遜色のない機能が期待できるようになってきたこと、また周辺機器を含め性能が大幅に向上してきたことから、今後ウインドウズベースのシステム構築にも本格注力し、WSとの混在ネットワーク設計環境に対応する。図研はウインドウズ(NTおよび95)環境で本格的なプリント基板(PCB)設計を可能にする「CR-5000/PWSforWindows」を開発、受注を開始する。CR-5000/PWSforWindowsはUNIX版の同PWSとデータベース完全互換で、オペレーションもすべて同一であり、ネットワークを介したワークステーションとパソコン間での本格的な共有運用が可能である。同社はすでに回路設計システムでUNIX版のほか、ウインドウズ版を開発しているが、今回のPWSforWindows投入を機にPCB設計分野でウインドウズ版の浸透を図る。横河デジタルコンピュータも、先ごろウインドウNTベースの回路図入力ツールを発表、来年に向けてPCBCADでウインドウズ対応を本格化する。(電波、11月21日)
シミュレーションでも、英国のEDAツールベンダーであるソラング社は、元来ジェンラッド社が供給してきたワークステーション(WS)べースの論理ツール「システム・ハイロ4」のPC対応版として、ウインドウズ95対応の論理シミュレーション・ツール「PCHilo(ハイロ)」の供給を開始し、米国系が強いEDA分野での浸透を図るとしている。
またポイント・ツールとして、消費電力解析ツール、伝送線路解析ツールや熱解析ツールなどが注目されている。伝送線路解析ツールは、伝送線路における遅延、反射、リンギングや線路間のクロストークなど回路特性の低下に繋がる要因を解析するのに、また熱解析ツールは、部品などの発熱が回路動作にどのように影響するかを解析する上で有効である。
HDLによるトップダウン設計が世界の潮流に
ディープ・サブミクロンによる大規模ASICへの対応、デジタル/アナログ混在回路回路設計の浸透、設計期間の短縮化などの要求がたかまり、トップダウン設計への関心が高まっている。日本はトップダウンより、ボトムアップを基本としていたため、かってのシリコンコンパイラーのように、いまひとつなじめない背景はあるが、トップダウン設計はいまや世界の潮流となってきた。
HDLを用いたトップダウン設計は、プロセスの進化による高集積化やツールの性能向上により、今後ますます普及して行くと思われるが、機能を記述するという電子回路図のない回路設計であるところから、日本の技術者にはなじみにくい面もあり、グラフィカルな表現によって回路設計をし、記述言語に変換する機能を備えた製品が登場し、注目されている。
一般に、これまでの回路図入力による設計では、1万ゲートを越えと設計やテストが困難になると言われている。しかし一方で、集積回路の製造技術の進歩は50万ゲートを越えるASICの製造も可能としており、今後、CPUコアを内蔵したシステム・オン・シリコンを実現するために回路規模はますます大きくなってゆく。このギャップを埋めるのがHDLによるトップダウン設計手法で
HDL設計の主なメリットは
(1)LSI設計者とCADプログラムのインターフェースを標準化して、いろいろのCADプログラムを利用しやすくなる。
(2)設計用記述データの流通性を高め、設計資産を有効利用できる。
(3)新しい設計手法やCADプログラムの開発を促進する。
である。
現在、ベリログHDLとVHDLがIEEE認定の標準言語の地位を得ており、日本ではベリログHDLが90%と高いシェアを占めている。
市場拡大する仮想計測器(VI)
試験・計測の世界においてもパソコンやワークステーション(WS)をエンジンとして利用し、パソコンをネットワーク化することにより、処理用データをワークグループで共有して、生産性を向上をめざす管理ツールとしようという動きが顕著になってきた。複数の単体計測器の機能を一台のパソコンで処理するバーチャル・インスツルメンツ(仮想計測器、VI)は、ユーザーにシステム構築の自由を与え、パソコンの進化と平行した優れた拡張性の提案で市場を拡大している。VIの概念をいち早く製品化したのがナショナル・インスツルメント(NI)社で、既存のデータ収録(DAQ)ボード、IEEE488(GPIB)VXIインターフェースボードを利用して、多様な計測機能のニーズに応じたVIの機能をユーザーが定義できる。パソコンやWSの急速な技術進歩と平行しているためVIの処理能力の向上はめざましい。計測の過程はデータ収録・制御、解析、表示の三要素に大別され、データをいったんコンピュータ内に取り込んだ後のデータ解析、表示はより洗練された形で簡単に実現できるのが特徴の一つである。
VIの最大の利点は、コンピュータ業界の巨額の投資による急速な技術発展により、経済的、かつ柔軟性に優れたシステム構築が可能で、技術革新のペースが一、二年と速い中にあって開発、保守コストが最小限に抑えられるのも特徴の一つである。
VIは自動車、教育、プロセス制御など、今日ではさまざまな業界で応用されている。
(つづく)
参考文献